新規高強度ゲルの開発と強靭化メカニズムの解明

溶媒を水とするハイドロゲルは、高い生体適合性を有していることから、人体に埋め込む生体材料などへの応用が期待されながらも、脆弱な力学強度が問題となっています。その問題を解決するために、2000年頃から様々な高強度ゲルが開発されてきました。私たちは、高分子ゲル伸長すると高分子鎖が結晶化する現象(伸長誘起結晶化)を発見し、「引っ張ると頑丈になるゲル(自己補強ゲル)」の開発に世界で初めて成功しました。一度形成された結晶は、力を取り除くことで即座に消失することから、自己補強ゲルは繰り返し大きな負荷がかかっても一定の力学応答を示し、人工靭帯・関節などの人工運動器への応用が期待されています。

自己補強ゲル

自己補強ゲルの解説動画

主要論文・解説

  1. 「引っ張ると頑丈になるゲル」の原著論文
    C. Liu, N. Morimoto, L. Jiang, S. Kawahara, T. Noritomi, H. Yokoyama, K. Mayumi*, K. Ito*
    “Tough Hydrogels with Rapid Self-reinforcement”
    Science, 372, 1078-1081 (2021).
  2. 「引っ張ると頑丈になるゲル」のニュース動画・解説記事
    TBSニュース(動画)
    Chem-Station スポットライトリサーチ
  3. 動的架橋高強度ゲルに関する総説(自己修復ゲル、環動ゲル、自己補強ゲル)
    眞弓皓一
    「動的架橋高分子材料の力学物性発現メカニズムの解明」
    日本レオロジー学会誌, 49, 295-301 (2021).

多成分系高分子・ソフトマターの階層構造・ダイナミクス解析

中性子小角散乱はナノスケールからサブミクロンスケールの構造を観察できる手法であり、特に高分子、コロイド、生体分子、界面活性剤などのソフトマターはこの空間領域に階層構造を有しているため、ソフトマターの構造解析において重要です。中性子小角散乱法の特長としては、重水素化ラベリングによって多成分系における各要素の構造情報を分離できること、中性子線の透過力が高いため試料環境の自由度が高いこと、等が挙げられます。また、中性子準弾性散乱法は、ナノ・サブナノスケールの時空間領域におけるダイナミクスを計測する手法で、高分子系では、絡み合い高分子のレプテーション運動、高分子セグメントの運動といった高分子物性を支配する重要な分子運動を観察することができます。中性子準弾性散乱法においても重水素化ラベリングによる多成分系解析が可能です。我々は重水素化ラベリングを駆使した中性子小角散乱法および中性子準弾性散乱法(特に中性子スピンエコー法)を用いて、多成分系高分子・ソフトマターの階層的構造・ダイナミクスを明らかにし、分子ダイナミクスシミュレーションも併用することで、マクロスケールにおける物性発現メカニズムを解明することを目指しています。

多成分系高分子・ソフトマターの階層的構造・ダイナミクス

多成分系ソフトマターの一例として環状分子・線状高分子からなるポリロタキサンの構造ダイナミクス解析を行っています。重水素化ラベリングを施したポリロタキサン溶液の散乱実験から、環状分子の配置・拡散運動、線状高分子鎖の形態・局所ダイナミクス、環状分子と高分子鎖の相互相関・相対運動をそれぞれ分離して評価することが可能です。

主要論文・解説

  1. 中性子準弾性散乱法と全原子シミュレーションを駆使して、ポリロタキサンにおける環状分子のスライド運動を初めて定量した研究
    Yusuke Yasuda, Yuta Hidaka, Koichi Mayumi*, Takeshi Yamada, Kazushi Fujimoto, Susumu Okazaki, Hideaki Yokoyama, Kohzo Ito*
    “Molecular Dynamics of Polyrotaxane in Solution Investigated by Quasi-Elastic Neutron Scattering and Molecular Dynamics Simulation: Sliding Motion of Rings on Polymer”
    Journal of the American Chemical Society, 141, 9655-9663 (2019): supplementary journal cover.
  2. 重水素化ラベルを施したポリロタキサンの中性子小角散乱・準弾性散乱研究に関する総説
    Koichi Mayumi
    “Molecular dynamics and structure of polyrotaxane in solution”
    Polymer Journal, 53, 581-586 (2021).